シンガポール移住を考えている、あるいは移住した人の中には、日本での生活と同じように車を持ち、オフィスへの出社や、ショッピング、家族と出かける時の移動手段として使いたいと考えている人も多いと思います。

ところが実際は、シンガポールで車を買おうとすると、日本と比べて5〜6倍(!)もの価格になるのです。しかも、日本だと会社オーナーの節税策のひとつに車の購入がありますが、シンガポールでは車による節税対策は「一切」できません。

シンガポールではなぜ、車の価格が驚くほど高いのでしょうか?実際に車を買う場合、どのようなことを考えておくべきでしょうか?詳しく解説していきます。

*文中では、1 SGD = 100 日本円として参照数値を入れておりますが、実際の為替レートなどは適宜ご確認ください

シンガポールで車を持っている人は5人に1人もいない

シンガポールの車の台数は、約95万台(2022年時点)で、ここ10年の車両台数は、ほぼ横ばいです。

そのうちプライベート用の車は53万台。550万人ほどの人口を考えると10%も持っておらず、保有率はかなり低いのです。シンガポールの平均的な世帯人数は3人で、世帯数は183万世帯ほど。世帯あたりでみても3割弱と低めです。(ちなみに、日本の車の保有率は8割です)

シンガポールで多くの人が車を持たないのは、まず政府が車の総台数をコントロールしていることが最も特徴的な背景です。狭い国土が車でいっぱいになり、渋滞だらけになる状況を強制的に避けさせているのです。その結果、車への税金が驚くほど高いため、購入価格が跳ね上がります。

加えて、国土が狭いので移動には苦労せず、車がないと行きにくいスポット(例:山奥の温泉や、遠出してのレジャー)が少ないことも理由として挙げられます。

政府が車の価格を高騰させて、人々の買う気をなくしている

「シンガポールの車の価格は驚くほど高い!」というのは、世界でも知られた面白い現象でもあります。この車が高くなっているカラクリは、大きく以下の2つです。

1つ目は、シンガポールでは車を買う際、「そもそも車を持つための権利」を買う必要があることです。この権利はCOE(Certificate of Entitlement、車両所有権)と呼ばれ、その有効期間は10年です。政府はCOEの発行数を制限することで、車両台数をコントロールしています。

そして、シンガポールでは車に乗せられる税金やコストがものすごく重くなっています。車は国内生産されていないので、100%が輸入車。輸入コスト、関税、さらにはシンガポール政府が車を贅沢品と捉えてさまざまな税金を乗せているのです。

こうして、シンガポール政府による厳しい車両台数のコントロール策が尋常ではない購入価格に反映され、買う気を削いで台数を抑えているのが実態です。

ただでさえ高い上に、年々高額になっているCOE

先ほどご紹介したCOEを得るには、月に2回行われる入札(オークション)に参加する必要があります。毎回、COEの発行数には限りがあるため、需要と供給の状況次第でCOEの価格は大幅に変わる仕組みです。また、購入する車両の大きさによってもCOE価格は変わります。

最近はCOEの発行数を抑えているため、COE価格は上昇傾向にあります。これは、シンガポールという国の特徴にも影響を受けているのです。税率が低いがゆえに、資産家や高所得者がシンガポールを目指して移住してきています。車を買うような購買力の高い人達が続々と入国して生活をしているため、COEの数が抑えられて価格が高くなっても、「お金は出す!車欲しい!」という人が多くいるのです。

例えば…

2年前の2021年のCOE価格は、中小型車(排気量1,600CC)で45,000 SGD(450万円)、大型車(1,600CC超)で56,000 SGD(560万円)でした。「車を10年間持つ権利」を買うだけで500万円かかることになり、日本であればトヨタ ハリアーが買えてしまうほどのコストがかかっていました。

さらに、最近のCOE価格を見てみましょう。2023年7月のCOE価格は、それぞれ97,000 SGD(970万円)、118,000 SGD(1,180万円)と2年前の2倍ほどに高騰しており、COEだけで1,000万円コースとなっております。このように、COEという仕組みは、シンガポールの車購入のコストを激増させている主要因となっているのです。

なお、COEは車のオーナーではなく車両に付随する権利であるため、車を買って中古で売ることになると、その車にくっついているCOEごと売ることになり、今ならなんと利益が出るケースも多々あります。COEが高いときに車を売ると、新車を買ったときよりも高く売れるという、日本では考えられない現象も起こりうるのがシンガポールの車保有にまつわる面白い点でもあります。

コンパクトカーが1,600万円!COEに加えて乗せられる税金達

COEにとどまらず、シンガポールならではの加算される税金もあります。

輸入時関税が一般車両価格の20%、ARF(Additional Registration Fee、追加登録料)が一般車両価格の100〜320%(!)かかるのです。この2つで、少なくとも車両価格+120%と、2倍を超える値段になってしまうことになります。

シンガポールでの「現実的な車の購入価格」をざっくり計算する数式は、「日本の車両価格×3+COEで1,000万円」といわれます。日本の車価格を3倍した上に1000万円乗せるという、想像を絶する高い値段になります。車両価格自体にも、輸入コストや高い不動産賃貸料・人件費などが含まれているため、高い車両価格に高い税金を乗せ、高いCOEを付加するので高くなってしかるべきともいえます。

試しに見てみると、トヨタ ヤリス(旧ヴィッツ)の価格はシンガポールでは160,000 SGD(1,600万円)です。日本では200万円台で購入できる車種なので、8倍も高いことになります……。日本で人気のSUVであるトヨタ ハリアーは230,000 SGD。日本円だと2,300万円になり、日本であればポルシェが買えてしまう金額です。

そして、購入後にかかるコストも、当然のごとく日本より随分高くなっています。ガソリン代は日本の1.5倍ほどかかり、中心地を通行するときにはERP(電子通行料課金、Electronic Road Pricing)が課せられ、保険も高い、とどこをとってもコストがかかります。ところが、シンガポールで実際に車を買うと、車両価格が高すぎるため、こうしたランニングコストは気にならなくなるようです。(それはそれで危険!?かもしれません)

それでも車を買う人は、高い車を買う

シンガポールで車を買うときには、コンパクトカーですら1,000万円超えになってしまうので、そもそも買う人を選ぶのがシンガポールの車市場といえます。車を買う人は経済力が相当ないと厳しいこと、そして明らかな贅沢品であることから、高級車を買う傾向にあるのです。

加えて、2,000万円もするような車を買うときには、ついつい200〜300万円の違いは脇において、少しでも良いものを……と高い車を選ぶ人が多くなっているようです。結婚式や住宅といった高額商品を買うときに、価格感覚が麻痺してしまうのと似ているかもしれません。結果、シンガポールの道路や駐車場では日本の都心以上に高級車が大量に見られ、信号待ちの車が全部いわゆる外車という風景も珍しくありません。

なお、ローンを組む際も、最低30〜40%の頭金を現金で支払うよう規制がかかっています。お金のない人が車を買わないようにするという理由です。そのため、車を買おうとする時点で、最低でも数百万円のキャッシュが必要になります。日本であれば国産車が余裕で買えるほどの頭金を支払った後も、1,000万円単位のローンが残るのがシンガポールなのです。

 

覚悟しておきたい、シンガポールの過酷!?な車ライフ事情

何かと高くつくシンガポールの車購入ですが、意を決して車を買ったとすると、その後の車ライフはどのようになるのでしょうか。日本と異なる点を中心に見てみます。

駐車事情

駐車料金は、日本より安い傾向にあります。ただ、駐車場の設計が日本のようによく練られたデザインになっておらず、一言でいうと適当です。駐車場のそこらじゅうに奇妙な出っ張りがあったり、柱があったりと、車を停めようとするとこすりやすい位置に何かと障害物があります。

車を停める駐車スペースも車のサイズより小さく、通路スペースにはみ出して車が停まっている(はみ出さないと停められない)ことも珍しくありません。

運転マナー事情

シンガポールは、車の運転が全般に荒いです。曲がる時にウィンカーを出さないことはもちろん、下手すると反対側に出していることもザラ。挙げ句、バスまでそんな有様です。車線変更は雰囲気で行われるため、ウィンカーが出ているかどうかには関わりません。

スピード事情

シンガポールのドライバーはスピードを出して運転するというより、狭いところや駐車場でも徐行する気がない人が多くいます。

そのため、駐車場や住宅地の至る所に、スピード防止のための「スピードバンプ」があります。このバンプは乗り上げると結構な衝撃が車を突き抜けるため、徐行せざるを得なくするための障害物なのです。スピードが落ちるのはいいのですが、おかげで車が痛みます……。

歩行者事情

シンガポールはドライバーが荒いだけではなく、歩行者も挑戦的になっていきます。信号のない横断歩道では、徐行する車の前にパッと飛び出して車を止めさせ、悠々と渡る歩行者が多く見られます。日本より自由な人が多いため、飛び出しには要注意です。

取締事情

パトカーを見かけたり取り締まりにあたったりする機会は日本より少ないものの、主要な交差点にはカメラがもれなく設置されています。世界有数の監視カメラが多い国であり、各種違反のチェックから逃れることは難しいです。そのため、当然ですが交通ルールは守る必要があります。

まとめ

残念ながら、車の購入で節税は一切できない

シンガポールに移住する人で、特に会社オーナーの場合、一般的な節税対策として車を買うケースがよくあります。

ところが、シンガポールでは車の購入費用やガソリン代、車関係の保険代金は一切会社経費にできないため、車を買っても節税対策にはならないのでご注意ください。乗用車のナンバープレートの場合は、すべて会社経費になりません。

トラックやバスなど、事業専用と言い切れる車に割り当てられるナンバープレートを持つ車だけが、事業用として”例外的に”経費にできます。普通の車は贅沢品の扱いであり、ビジネスの必要経費ではないとみなされるためです。

ところが、シンガポール人にとっては車はステータスのひとつなので、それでも車を買う人が意外と多いのが実情です。そうした余裕を見せつけたい方(?)が多いのでしょう。

日本人で車を買う人も、時間や経済合理性ではなく、趣味性が強い購入になることが多いように感じます。タクシーは日本より安く使いやすいので、仕事での移動よりも家族の移動(特に子供の送迎など)やゴルフ目的の方が多いように見受けられます。また、マレーシアのジョホールバルは陸続きでシンガポールからもすぐに行けるため、安い物価や美味しい食事を目指して車で出かける人も多くいます。

こうした、何らかの強い動機や車を持つこと自体に魅力があれば、シンガポール生活の満足度を上げるために、車を買うことを検討してもいいかもしれません。

最後に

シンガポールへの移住を考えており、ご自身に最適な移住方法が知りたい場合は、シンガポール移住.comまでお気軽にご相談ください。