一般的に公用語と聞くと1つの国に対して1つという印象をもたれる方が多いのではないでしょうか?多文化多国籍な国として知られるシンガポールではどうかというと、実は公用語として指定されている言語は4つあります。我々日本人の感覚からすると、公用語と呼ばれるものが1つであるべき・・・と思ってしまいがちですが、シンガポールでは最もよく使われている英語に加えて、中国語(マンダリン)、マレー語、タミル語、の合計4つがシンガポールの公用語となっています。

例えば、シンガポールの首相演説では、英語、中国語、マレー語の3言語でスピーチをすることが通例になっています。(参照:Prme Minister’s Office, National Day Rally 2o23 リー・シェンロンのスピーチの様子)民族の調和も国策として様々な場所で強調されており、言語面でも英語がメインとはいえ、他言語でのスピーチ、各所での看板や案内などを通じて民族調和を目指しているとも言えます。これはこの記事ではシンガポールの公用語のそれぞれの特徴、使われ方や、歴史的背景を紹介します。

そもそも「公用語」とは?

公用語とは、特定の国で、政府や法律手続き、そして他の公的な活動において正式に採用された言語を意味します。具体的には、政府機関や公共団体が公式文書やコミュニケーションに使用する言語として指定した言語です。

シンガポールの4つの公用語紹介

1. 英語:最も使われている公用語

英語はシンガポール国内でのコミュニケーションの共通言語となっており、ビジネス、教育、公共の場で第一言語として使用されています。1824年から世界大戦まで続いたイギリス統治時代に英語が定着し、現在ではシンガポールの事実上の主要言語となっています。
これは1965年の独立後、シンガポールが経済的利益を追求するために採用した政策の一環でもあります。また、シンガポールの英語は、多様な民族による様々なイントネーションの影響を受けており、独自の声調を持つシンガポールイングリッシュ(通称:シングリッシュ)に進化しています。(参照:Forbes, リークワン・ユーの言語政策

2. 中国語(華語) : 人口の多数派の母語

シンガポールの中華系民族は人口の約75%占めており、彼らのコミュニティでは中国語(シンガポールでは華語と呼ぶ)が広く話されています。彼らのような民族を「架橋(かきょう)」と呼びます。年齢層が上であるほど広東語や福建語といった方言を話す人も多くおり、架橋同士では中国語と方言の両方を話せる人は少なくありません。

3. マレー語 :国の代表言語

シンガポールでは英語が第一言語として使われている今日ですが、国を代表する言語はマレー語です。シンガポールの国歌でもマレー語で歌われています。なぜマレー語が代表言語かというと、シンガポールを建国した民族プラナカン(海峡華人)の公用語がマレー語だったからです。また、建国を主導した初代首相リークワン・ユーは客家系華人の4世で中国語が第一言語と思われがちですが、彼はプラナカンの母を持ち、若年時はマレー語と英語がメインだったようです。中国語を話せるようになったのは38歳以降だとか。

4. タミル語 – インド系コミュニティの言語

シンガポールの人口の一部はもともとインド南部の出身であるため、タミル語がシンガポールの公用語となっています。しかし、ベンガル語、ヒンディー語、ウルドゥー語、パンジャブ語など、他のインド言語も学校で学ぶことができます。

なぜシンガポールで4つの公用語が採用されたのか?
歴史的背景と国の政策

リー・クアンユー初代首相は、シンガポールが独立国として成功するためには、国内の多様な民族と文化を統合する必要があると考えました。シンガポールの民族構成は中華系74%、マレー系14%、インド系9%(2022年)となっており、これを反映するため、英語、マレー語、中国語、タミル語の4つの公用語を採用しています。
参照:外務省シンガポール基礎データ

経済的側面

英語は国際的なビジネス言語としての役割を果たしています。シンガポールが国際的な拠点として成功するためには欠かせませんでした。また、中国語、特にマンダリンは、中国との経済的な関係を強化するためにも重要であり、マレー語とタミル語も近隣国とのつながりを保つ上での鍵となっています。

社会的側面

マレー語はマレーシアやインドネシアとの文化的・歴史的絆を示しています。中国語は、シンガポールの多数派である華人コミュニティの言語と文化を反映しています。タミル語は南インドやスリランカとのつながりを示し、インド系シンガポール人コミュニティの継承とアイデンティティを保護しています。

リー・クアンユーは、これらの言語を公用語として採用することで、民族間の理解と調和を促進し、シンガポールの多様性を強化するとともに、経済的な機会を最大化できると信じていました。

歴史的背景

シンガポールの公用語の選択は、多文化的な歴史を持つこの都市国家の深い背景に根ざしています。多くの華人移民が19世紀から20世紀初頭にかけてこの地に定住したことで、中国語が話されるようになりました。マレー語は、シンガポールがかつてマレーシアの一部であったという歴史を持ち、今でもマレーシアとの地理的・歴史的な繋がりを示しています。また、タミル語は南インドからの移民を代表しています。

それぞれの公用語の使われ方

道路標識などの公共の場所

シンガポールの道路標識は、すぐに多文化主義を感じさせるものです。例えば交通機関の電車では英語、中国語、マレー語、タミール語でそれぞれアナウンスが流れます。また、道路標識も同じです。これは、どのコミュニティの人々も平等に情報にアクセスできるようにするための工夫です。
公共機関のガイダンスは必ず4言語に対応しており、優先順位としては英語、中国語、マレー語、タミール語の順番になります。

通貨・お金

シンガポールの通貨には、各言語での額面表示があります。これにより、どの言語を話す人々も自分たちの言語の価値を感じることができます。このようなデザインは、シンガポールの多様性を象徴しています。

国歌

「Majulah Singapura」(進めシンガポール)は、1963年の独立以前からシンガポールの公式な歌として歌われていました。マレー語の歌詞は、平和と統一、そして進歩を祝福する内容になっています。この国歌を通して、シンガポールの多文化的な背景と、異なるコミュニティが一つとなって国を形成していることを感じることができます。

追加の逸話

シンガポールの初代首相リー・クアンユーは、多言語主義の重要性を強調していました。彼は、各民族が自分の言語と文化を尊重し合いながら、英語を共通のコミュニケーション手段として使用することの重要性を認識していました。

シンガポールの学校教育では、生徒は英語の他に、自分の「母語」(中国語、マレー語、タミル語のいずれか)を学ぶことが義務付けられています。これにより、シンガポールの若者は、国際的な場で活躍する能力と、自分たちのルーツを理解する能力の両方を身につけることができます。

実際にはバイリンガル教育政策が行われており、2020年の統計データによれば、国民の約74.3%が2つ以上の公用語(英語と、それぞれの民族に基づく母国語)を話すことができるという統計があります。このような多言語環境はシンガポールの国民性の一部となっており、異なる文化が共存する特徴と言えるでしょう。(参照: シンガポール統計庁の公式ウェブサイト

Multi Language Literacy

画像引用:Singapore Census of Population 2020, Statistical Release 1: Demographic Characteristics, Education, Language and Religion

まとめ

シンガポールに訪れると、最初に聞こえてくる言語は英語ですが、地域や環境によっては異なる言語が使われています。例えば、チャイナタウンでは中国語、リトルインディアではタミル語が街中で聞こえてきます。
小さな国ですが公用語が4つも行き交っており、異文化の共存を肌身で感じことができるのはシンガポールを表す大きな特徴の一つです。